WUNDER : Wunder

何とも形容し難いアンニュイなジャケットともども一世風靡した本作。全部サンプラー1台で作られたらしい。サンプルのソースはジャズやら映画音楽やらちょっとモンドチックな感じのものまで色々混ざってて古くも新しくも無いレトロフューチャーな世界観を提示している。特に好きなのは3.「What I Know」。ドリーミーなメロディーで始まるオープニングから一転、アップリフティングなピアノリフがスウィングするようなジャジーなリズムを作り出しています。洒落た歌モノっぽい感じの曲も多くて初聴きの人にもオススメです。


AIR : Premiers Symptoms

AIRとえばアルバム 「Moon Safari」 で一躍メジャーになりましたが、個人的にはこちらのEPの方も良いと思います。 「Modular Mix」や 「Les Professional」のようなダビーなブレイクビーツにアコースティックギターやホーンのまろやかなメロディーを散りばめたラウンジライクな音が良い。また、 「J'ai Dormi Sous L'eau」 のイントロの暖かくかわいいメロディーが素敵!ただ気持ち良いだけでなくひとくせあるサウンドを聴かせてくれます。


TO ROCOCO ROT : The Amateur View

トゥロココロット、その愛らしい響きの名前のとおりのサウンドで、ポストロック~エレクトロニカ文脈の間を往来するユニット。チープなリズムボックス系のリズムや時々現れるねじれた電子音やノイズは、はっきりいって好みではないものの、特に 「Die Dinge Des Lebens」、「Prado」 の2曲で強調されている流麗で美しいメロディセンスが素晴らしい。 「Prado」 は徐々に姿を現すギターのメロディとゆったりと打ち鳴らされる生音ドラムが良い。一方、 「Die Dinge Des Lebens」 は、美しいメロディが心に響く、ソフトなセンチメンタル・アンビエントな1曲。ちなみに Nettropics なるドイツ映画にも使われているらしいです。


SAVATH + SAVALAS : Folk Songs For Trains, Trees And Honey

The Album Leafあたりとともにインスト主体のサウンドとしてお気に入りの Savath + Savalas、もちろんただの生演奏ではなく不思議なノイズやコラージュされたサンプリングがところどころ用いられています。 さざ波のような電子音の中から立ち現れる憂いを帯びたフレーズが美しく、その電子音がそのまま次の曲へのインタールードとなってゆく構成なんかも上手い。本作ではなんといってもゆったりとしたジャジーかつアンビエントな曲調が印象深く、なかでも 「Journey's Home」 での今にも溶けてしまいそうな甘い美メロがこの上なく素晴らしい。CMにも使われたそうな。


ALEJANDRA & AERON : The Tale of Pip

Lucky Kitchen主宰にして、TomLabなどからのリリースでも知られる Aeron Bergman らによるユニット。本作は手作りっぽい紙製ジャケにストーリーブックが折り込まれた特殊な仕様となっており、 Aeron の母親によって語られる物語をはさみつつサントラ的に展開されてゆく。物語の主人公であるピップという動物?はけっこう悪い奴らしい。楽曲の方は物語同様チャイルディッシュなものかと思いきや意外とダークだったりして、ハーモニカ、フィールドレコーディング、電子ノイズやダークなドローン音などがかなり先の読めない不安感のある展開をしてくる。断片的にドローンに魅力を感じるものの、物語と音楽との関連性が難解で捉えどころがない。

KUCHEN : Kids with Sticks

牧歌的でポップなエレクトロニカ作品で人気を集めるカラオケカークより、詳細不明のクーヘンなる女性アーティストのミニアルバム。アコースティックな音要素をふんだんに用いたぽかぽか暖かいメロディーやキラキラしたかわいらしい音に、ところどころリズミカルな要素が顔を出す、といいますと Wechsel Garland や MUM あたりを思い浮かべますが、実際近い。それ以上に目立ったところは無いですが、この手の音には安心して聴ける良さがあります。


MIROQUE : Botanical Sunset

ガーリッシュな不思議トイトロニカレーベルcacha*maiを主宰し、 unico (手塚治虫『ユニコ』の引用?)名義でもリリースする女性アーティスト ミロク。こちらは360°からのデビューCD-R作品です。ややローファイな質感を有しており、この方の音楽は紡がれるという表現がよく似合っています。時にゆったりとしたメロディの繰り返しには、波打ち際に何度も押し寄せる波をぼんやりと眺めているような気分になる。かつてこどもだった自分がおとなになり、いくら世の中が変わろうと朝には日が昇り夕方には日が沈むことは変わらないのだなあと、ちょっと感慨深くなりました。


V.A. (Kompakt) : POP AMBIENT 2002

Mille Plateauxからのライセンス収録となるDonnacha Costelloの10分間にわたる大作が目玉です(4曲目)。儚くも美しいフレーズがゆったりと繰り返され、しっとりと孤独な雰囲気を味わうにはぴったり。また、www.jz-arkh.co.uk なる、URLがそのままアーティスト名という変わった人も、背後を幽かに漂う空気の振動と、深い深い残響音が夢うつつの理想郷を生み出す素晴らしい1曲を披露しています(3曲目)。ひとくちにアンビエントといっても様々ですが、この1枚で聴ける「Pop Ambient」とは、穏やかでメロディアスで可憐な雰囲気のアンビエント。 Brian Eno や Harold Budd といったルーツミュージックからの影響を感じさせる正統派のアンビエントです。


V.A. (Tomlab + Audio Dregs) : FOR FRIENDS

ドイツ・ケルンのTomlabとアメリカのaudio dregsという共に牧歌的なエレクトロニカ作品で有名な2つのレーベルが共同で制作したコンピ。全体的にリズムはゆったりと、ほんわかしたメロディの曲がほとんどで、どれもこれもユルユルな感じなので聴く方も緊張感も無いです。本コンピの前作にあたる2000年の「For Friends」では、特にF.S.Blumm の曲は素晴らしく、それに続く Jon Sheffield、 Alejandra & Aeron もとても好きでしたが、それらに比べると本作では特に Jon Sheffiled の曲はダメだった。意外と好きなのは Ekiti Son という人のおもしろ脱力ロボ声風ヒップホップ。

WECHSEL GARLAND : Wechsel Garland

牧歌的エレクトロニカというか室内楽的エレクトロニカというか、その手の音の中では群を抜いて心地良い浮遊感を有した傑作。ビブラフォンなどの柔らかい生楽器をつめ込むことなくゆったりとした時間軸上に配置させることによって、Wunder名義よりもずっと間があって緩いアンビエントさが増している。例えば1曲目ではヴィブラートのかかったシンセの深い深い残響の中からミニマルな美メロがじょじょに姿を現すという按配。ちょっと異色なのは5曲目。小刻みなパーカッションとダウナーな雰囲気が絶妙。ナイスセンスですなあ。


EKKEHARD EHLERS : Plays

Albrecht KunzeとのユニットMARZでは素晴らしくポップな傑作をリリースした Ekkehard Ehlers 。本作は音楽家、映画監督など彼が敬愛する5人の偉人達をトリビュートしたアナログ連作をコンパイル。トリビュートといえども単純な「Sampling」ではなく「Reference」という概念に基づいているようだ。音楽的にはエレクトロ・アコースティックなドローン系から短い電子音の断片や生音から成る楽曲の2通りに大別できる。前者のタイプでは優雅で壮大なオーケストラルアンビエントや、わずかに変化してゆくミニマルな弦楽多重奏のフレーズが大変美しい。一方、後者ではフリージャズ的な不協和音やミステリアスなチェロの響きが狂気の潜む人間性を表現したりするのだろうか。実際ブックレットには各偉人に関連した場所の衛星写真が収められているが、 Albert Ayler の写真は晩年謎の死を遂げたN.Y.のEast River らしい。ラスト1曲のみ断片クリックハウスですが、あたかも Robert Johnson の人生のように…。


GREG DAVIS : Arbor

アコギ+電子処理、あるいはラップトップフォークということでよく FENNESZ 「Endless Summer」が引き合いに出されるが、 FENNESZ がギターサウンドとノイズの両者を自然に調和させているのに対して、本作はギターに比重が大きい分、電子音やノイズの必要性そのものに疑問が残るところ。なにしろ皮肉にも無添加ギターのみの曲が最も美しいし、時々現れるノイズにもやや違和感を覚える。むしろヒップホップ、ジャズ、現代音楽と通過した経歴ゆえの、秋の空が似合いそうなアコギのメロディ+性急なビートメイキング、という組み合わせに魅力を感じる。ただしドラムンベースはやめて欲しいけど。


HAUSMEISTER : Weiter

1年に1枚ペースでリリースしている「管理人」ことハウスマイスター。Karaoke Kalkのこの系統の音では MARZ / Love Streams などと並んで代表的な存在でしょうか。よくチープといわれていますが曲の構成もメロディセンスも良好だし、多彩な楽器が使われていて結構本格的な感じします。音使いの可愛らしさが最大の特長でしょう。いずれの曲もメロディアスで、本人によるボーカルナンバーもハイラマズ的なドリーミーなポップという感じ。

MARZ : Love Streams

傑作ぞろいのカラオケカークの中でも特にリスナーを選ばず広く受け入れられる、ポップで完成度の高い1作。タイトルそのままの優しく牧歌的な生音が紡ぎ出す素朴な持ち味を生かしつつ、フィールドレコーディングや耳に優しいノイズ、ときにはハウシーなリズムを取り入れており、まさに「アコギの音色がスイスイ泳ぎ、エレクトロニクスの波紋を作りだす」、という表現が的を得ています。また、いくつかあるボーカル入りの曲の中でも 「Everybody had a hard year」 は最高に美しく、ヒューマンタッチな愛に満ち溢れた1曲。起承転結のあるアルバム全体の構成力がまた素晴らしく、あたかもひとつのストーリーを楽しむかのように最初から最後まで聴き込める。

NIKAKOI : Sestrichka

グルジア共和国?から現れた新星、ニカコイ。かわいらしくもあり哀愁も感じさせるような異色のメロディセンスはロシアの土地が生みだした賜物だろうか。それだけでなくこの人が素晴らしいのは、優れたビートメイキングによってせわしなく刻まれるリズムを大胆にも融合させたところにあるでしょう。エレクトロニカ系にありがちなちまちました細かいグリッチ系のビートよりも、 このくらいソリッドに打ち込んでくれた方が個人的にはしっくりくる。「Maia」のどことなく中華系の切ない旋律も美しい。また、 Tusia なるロシア語?の女性ボーカルのほか、かすれた男性ボーカルもかなり独特。駄作は一切無く、全曲作りこまれた完成度高き傑作である。


TAKAGI MASAKATSU : Eating

近年ここ日本から数々の自由でおもしろい音楽が発せられているが、その中でも高木正勝の活躍は目を見張るものがある。本作は彼が昔書き溜めていたトラックをコンパイルしたものだそうが、すでに素晴らしいメロディセンスをお持ちなようです。例えば5曲目なんかで聴ける東洋的なメロディなんか特長的ですが、どこか独特の丸みというか、情緒というか、日本人にしかわからないであろうワビサビ?があります。高木正勝のその後のリリースではより映像喚起力の強い方向へと向かいますが、本作はそんなに映像的な要素が無い分のんびりと音に浸れます。ラストの子供の声の曲の中から「カッチャン」って聞こえますね。


TELEFON TEL AVIV : Fahrenheit Fair Enough

アコースティックとエレクトロニクスとの融合、それは今ではさほど珍しいことでもないが、その2つの側面に対して共に秀でた才能を感じさせるのが、このTTA。ソングライティングとスタジオワーク、そのどちらにも大きな比重を掛けているというだけあって、 甘く芳醇なメロディとハーモニーが広がる有機的なアンビエントととんがってねじれたエレクトロニクスとが高度なレベルで共存している。また、魔法にかかったようにサンプリングが散乱した複雑な変態ブレイクビーツと緩やかでスムースな整頓されたダウンテンポとのコンビネーションの上手さが光っており、彼らの緻密なデジタルプロセッシングを伺うことができる。


ALEJANDRA & AERON : Bousha Blue Blazes

聖歌隊の経歴をもつ Aeron のおばあさん(Bousha)をゲストに迎えて生楽器も多用し、前作とは打って変わって耳あたりが良い。歌といっても適当に流れているラジオにハミングしているものだったり、ギターにしても泣けるメロディーを爪弾くなんて大げさなものではない。しかし、その適当さこそがこの作品の緩い心地良さを作り出しているのだろう。なんといっても Alejandra & Aeron の特長であるフィールドレコーディングが繊細に用いられており、まどろみを誘うギタードローンにクリスマスシーズンを迎えた清らかな街の空気を封じ込め、静謐で美しい雰囲気を作り出している。また、食卓にあるものを素材としてコラージュした曲では、何かの打突音?ガラスの破砕音?などと色々想像させてくれる。ボーカル変調の1曲を除き、総じて時間を忘れさせてくれるような緩いムードが、ラップトップ子守歌とも言えそうな一作。初回特典として球根のポスター付き。

ANDREW THOMAS : Fearsome Jewel

KompaktのPop Ambient系列作品。まさにPop Ambient的なドローン+ぽろんぽろんとしたシンプルなピアノのループと時々軽めのドラムという構成。まったく害の無い音ではありますがざっと聴いた限りは全曲どれも似たような感じでメロディとか組み合わせが多少違うだけに聴こえるような。それにしてもほとんど1~4分程度の小曲なのでかなりボリューム不足じゃありませんか?時々この音色はいいなと思ってもすぐさま終わりというあっさりめの内容でインパクト無し。なんとも心残りになったがこの後 GAS を聴いて気分爽快すっきり。


NIKAKOI : Shentimental

昨年の「Sestrichka」で一躍有名になったニカコイ。前作ではお国柄が出てるのか出てないのかよくわからない異色のメロディセンスが素敵だったが、本作は残念ながらその手のメロディがかなり減ってしまっている。その代わりというか全体的に温度低めの浮遊感が増し、ビート構築についても刻みの細かさは前作同様なれどやや控えめかも?とはいえ1.「uuusmine」からいきなり高速ブロークンビーツが冴えまくってます。個人的に空間的なウワモノと疾走感あるリズムというコンビネーションには滅法弱いので、5. 13. 16.あたりがたまりません。前作同様男女のボーカル曲もいくつかありますが、正直ダウンテンポになったとたんに個性が薄れてしまうような気がしないでもない。

RAFAEL TORAL : Electric Babyland / Lullabies

ラファエルトラルはTomlab, Touch, Moikai といった名だたるレーベルからリリースしており、ギターを用いた音響アーティストとしてかなり名の知れた存在らしい。といってもギターの面影はほとんど無いですが、このゆらゆらとたゆたんでいるような汚れなき純白の世界に時々浮かび上がるオルゴールや鉄琴らしき音色が波紋を描いてゆくという極めてアンビエントな展開は、まさに音響と呼ぶにふさわしい繊細なサウンドスケープといえるんじゃないでしょうか。しまいにはその静けさにCDが回っているのを忘れてしまうほどです。静かな分インパクトは強いってわけではないですが、オルゴールのポロンポロンとした音色にはちょっとした魔力も感じたり。


TAKAGI MASAKATSU : Eating 2

元々映像アーティストだけあって視覚的な作品が多い高木正勝。最近はボーカルをフィーチャーした「Rehome」も同時期にリリースするなど音楽作品にも勢力的なようです。カラオケカークからの前作「eating」では「hanri」などシンプルな作りながらも心にジワリと来るメロディが印象的でしたが、その続編となる本作では音楽的にも成熟して、より鮮やかな色彩を感じさせるポップなサウンドになっています。ピアノ、ストリングス、オーボエ、鉄琴、スチールドラム…いやいやもっとたくさん…種類も音色も多種多様な生音をこれだけ流麗に楽曲としてまとめ上げてしまうところがすごい。ラウンジ的な軽やかなリズム感も気持ち良くて楽しめます。


TAPE : Opera

スウェーデンの TAPE なるトリオ、ギターやハーモニカを中心に、オルガン、アコーディオン、トランペット、ベル、グロッケンシュピール(何それ?)などなど、様々な生楽器の配置とその隙間に漂う電子音の味付けがかなり不思議。特にハーモニカの音色などにブルージィな渋さがあって、柔らかくて耳当たりの良いフォークトロニカ系のものとはやや異質であります。1.の後半での虫の音のようなバックグラウンドや、9.の後半の Alejandra & Aeron のようなフィールドレコーディングと微弱電子ノイズのコラージュの挿入もまた良い。アルバム終盤は音数も減って閑散とし、ほとんど枯れきったような雰囲気になりますが、どことなく冬を迎える直前の秋のような季節感。


TELEFON TEL AVIV : Immediate Action EP #8

4曲入りEP。初のボーカルフィーチャー曲「sound in a dark room」はなかなかいい。 Lindsay Anderson の美声は TTA の作り出す楽曲の中に主張しすぎることなく溶け込んでいる。歌モノと呼べるほどボーカルには重点を置いてないし、少なくとも2ndアルバムの曲よりも好き。それ以上にいいのは「8 Track Project Cut」。まさに TTA らしい乱雑にとっ散らかった電子音とスムースなダウンテンポのコンビネーション。他に Slicker, Prefuse 73 のリミックスもあり。


ULRICH SCHNAUSS : A Strangely Isolated Place

かのウルリッヒ・シュナウスがまさか Ethereal77 と同一人物であるとは、かなり驚いたものだ。 Ethereal77 といえば Good Looking Records から2002年に出たいまいちコンセプトがよくわからない(しかし決して質は低くはない)「Visions」 なるコンピに1曲提供しているのだが、なにせこの1曲が Ulrich 名義とはかけ離れた GLR 王道的ドラムンベースなのである。さて、本作はもはや定番ともいえる一枚だろう。「On my own」での低く這うベースラインと天使のような声が行き交う空間を突き抜けて一気に明るみに出るような巧みな展開が生み出す疾走感は半端じゃない。7曲目もまた然りである。リズムボックス系の軽やかなリズムと暖かみある序盤から、煌くような美しいシンセと引き締まったドラムによってより厚みを増した中盤、さらに思わず口ずさんでしまうメロディの終盤と、どこを切っても完璧な、最高の一曲である。


EHLERS / SUCHY / HAUTZINGER : Soundchambers

Joseph Suchy のギター+ラップトップ、Franz Hautzinger のトランペット、 Ekkehard Ehlers の加工ピアノサンプル+マシンノイズという三者三様のスタイルががっぷりと組み合った「broken pop ambient」。インプロ的なギターとトランペットはどちらも明確なメロディは無く、深みのある音響効果によってどんよりとした空間を作り出している。さらにそこへ突拍子もなくチリチリザワザワ・ゴボゴボと電子音・ノイズが挿入されるという構成。


KETTEL : Volleyed Iron

どこか古ぼけた映画のスコアを思わせるような憂いに満ちたピアノや、ヨーロッパの地が思い浮かんでくる日常音なども多用された、架空のサウンドストーリー。グリッチやリズムに依存しない純粋な生音~メロディアスアンビエント作品としては、近年稀に見る完成度の高さではなかろうか。さらには面白いことに、永遠に続くかのような深海遊泳に浸っているのもつかの間、突如どこからか電話のベルが聴こえてくるといった違和感も巧みに利用されている。しかも電話の音が途切れた直後、澄み渡るような広がりを見せる Clock.exe がまた奇跡的に美しかったりもするのである。そう考えるともしかしたらこれは電話ではなく目覚まし時計なのかも。


LULLATONE : Little Songs About Raindrops

Audiodregs, Childisc, Plopからリリースしている日本在住の若きアーティスト。おもちゃチックでかわいらしい音をお探しならうってつけ。おもちゃチックとは言えども散らかった音ではなく、かなり流麗に音が配置されております。3.なんかではシンプルな鉄琴の演奏から始まって段々といろんな音が加わっていき、よりカラフルによりリズミカルに盛り上がっていく様などが素敵です。ほんわかした低音の残響と流れるように優しいメロディを奏でる高音が気持ちよく調和した6.がベストの1曲! Rafael Toral の Little Stars っぽいですね。他にもボイス、ウクレレ、ギターなどもゲスト参加。


TAPE : Operette

1st,2ndと矢継ぎ早にリリースした Tape、早くもリミックス盤が登場。 David Grubbs, Fonica, Minamo, Anderegg, Pita, Stephan Mathieu, Oren Ambarchi... リミキサー陣が凄い。もともと秋の夜長的な哀愁があった Tape の音素材を基にして、音数を減らしてさらにドローンでさらにアンビエントなエディットをした楽曲が半分。ぶっちゃけオリジナルの方がいいけど、どれも質は高い。逆にソリッドなリズムでハウス/テクノフレイバーを加えた意外・異色なリミックスの Hazard もナイス。なぜか Josh Abrams が一番うるさかったりもします。

TAYLOR DEUPREE & CHRISTOPHER WILLITS : Mujo

「Invisible Architecture #8」以来となる注目のコラボレーション。無常という抽象的なタイトルとは裏腹にほんわかリズミカルで楽しい。基本的に Willits 流の柔らかいメロディ主導で Deupree 色はやや薄い気もするけど、12K特有の清涼感のある音使いは生きている。最終曲を除いたすべての曲が安定して聴きやすい内容であるが、2.「Living Flowers」のような軽く跳ねるようなリズミカルな曲は新鮮さを感じる。個人的ハイライトはゴニョゴニョとした6.の終盤から、突如意表をつくように閃きのような清らかな音が現れる7.である。


TELEFON TEL AVIV : Map of what is effortless

ボーカル中心のつくりになることは Immediate Action EP の内容から察することはできたけど、完璧に歌モノアルバムとなった。ストリングスの比重も大きく派手に展開する楽曲、やたらエッジが増してスローでスカスカなビート。前作の TTA らしさはどこにも見当たらない。デビューが衝撃的な分2作目にかかる期待も大きく、かといって1stと同じことやっても悪口言われるという辛い2年目のジレンマなのでしょう。


XELA : Tangled Wool

華やかなオープニング「softness of senses」が素晴らしい。ただし最初がクライマックスで、2曲目以降は割りと素朴なアコギ+シンプルなビートのトラックが続く。アコギはややおなかいっぱいになってきた感もある。でも1曲目は突出して良いですよ。


AO : View/Room

ネットレーベルmimiより、on_14さんのMP3形態のEPがリリース。当サイトのBBSの方で何度かやりとりがあったのですでに聴かれた方もいると思いますが、折り重なるギターの残響が激しくも美しい、ある種のアンビエント。僕が一番好きなのは「View 3」です。ぜひ思い切り音量を上げてヘッドフォンで聴いてみてください。音が降り注ぐとは、まさにこういうこと。

MANUAL : Azure Vista

「Summer of Freedom」は真夏の太陽に照らされてキラキラと輝く水面のよう。ベタかもしれないけど。


MARSEN JULES : Herbstlaub

Thinner/AutoplateからのMP3作品「Yara」などですでに大物の片鱗を隠さずにはいられないという感じであった Marsen Jules。満を持してリリースされた初のCDアルバム作品は期待以上の素晴らしい出来となった。幾層もの荘厳なストリングスがダイナミックでありながらも丁寧に心地良く重ねられ、鮮やかな紅葉の情景を思わせる3曲。そよ風のようなノイズの上にぽつりぽつりと現れる寂れきったギターやピアノの音、静かで平穏な展開が晩秋のメランコリーを感じさせる3曲。まさに「neo-classical electronic music」の決定盤現る!